ジュニア選手の心理とその指導

 

ジュニア期の心理的な特徴

 ジュニア期の心理的な特徴をみると、小学校の高学年では徐々に抽象的な思考ができるようになるので、説明や解説を加えた指導が有効となってくる。情動面をみると、青年期に比べて比較的指導のしやすい平穏な時期である。そして、大人との接触が少なくなり、子どもたちだけの世界を作り出す方向へ向かい、仲間との強い結びつきができる時期でもある。しかし、最近では自己中心的な子が増ええてきているので、グループ単位の練習をすることで、集団生活に関わる力を育てることが求められている。

スポーツの意義と弊害

スポーツをしてよかった理由として、@体力がついて体が丈夫になった、Aスポーツがうまくなった、B友達ができた、Cがまん強くなった、などを挙げている。成長期の子どもにとって運動やスポーツをすることは、三度の食事と同じように欠くことのできないものである。しかし、スポーツは諸刃の剣で、やり方次第で毒にも薬にもなる。

 スポーツには競技性と遊戯性の2つの側面がある。競技性とは試合での勝利や結果を追求する側面で、遊戯性とは楽しむことを目的としたレクリエーション的な側面のことである。競技性を追及すると、当然練習は厳しくなり それに耐えてこそチャンピオンヘの道が開かれるということも否定できない しかし 勝敗へのこだわりが度を過ぎると様々な弊害が生じてくる。

小学生を対象に「やる気をなくした理由」をみたところ、練習の厳しさ、試合での記録や勝敗、仲間や指導者との人間関係に関わる悩みやストレスが多い。

 

 

男  子

女  子

1

苦しい練習が続いたので

苦しい練習が続いたので

2

記録が低下したり、プレーの失敗が続いた

絶対に負けたくないライバルに負けた

3

満足のいく記録・プレーができなくなった

記録が低下したり、プレーの失敗が続いた

4

チームのまとまりがなく、バラバラと感じた

チームのまとまりがなく、バラバラと感じた

5

両親に認められなかったり、けなされた

指導者に認められなかったり、けなされた

 

このような特徴をもった子どもたちなので、指導にあたっては相当に慎重な配慮が求められる。

ジュニア期は心身の発育・発達途上で、体格や体力に大きな個人差があるように、心の成長にも個人差がある。この点を理解して、練習では身心の個人差を十分に配慮し、それぞれの子どもに応じた指導が求められる。また、試合では勝敗だけでなく、「結果は重要ではない、内容である」といわれるように、そくでのプレーや試合運びなども評価し、負け試合においてもよかったところを評価したり、課題を明確にしてあげることが必要である。

ジュニア期の指導は、「楽しく、仲よく、安全に」が基本。たとえ失敗しても「失敗は成功のもと」と楽観的に、温かく見守ってやりたいものである。

子どもの可能性を信じること

 名指導者といわれる人たちの能力観には、「能力の差は小、努力の差は大」「天才は有限、努力は無限」と努力が大切と考え、プレーヤーの「可能性を信じる」といった楽観的な能力観をもった人が多い。

 可能性を信じ、努力が大切という能力観は指導の原点である。すべての子どもたちに可能性があると考えることによって、指導の効果を信じ、指導法工夫への努力が出てくる。ところが、素質が大切と考えるところでは、「上手、下手」は子どもたちちの生まれつきのものであって、指導法を工夫して子どもの能力の発達を促すという指導者の仕事は、背後へと押しやられてしまうことになる。一方、子どもたちにとっても可能性を信じ、努力が大切と考えることによって、たとえ今はうまくなくても、もっと努力すればうまくなれるのではと思い、練習意欲を高め、技能の向上へとつながっていくことになる。

好かれる指導者、嫌われる指導者

 子どもたちは少年団に所属していると、この少年団にとどまっていたいとか、みんなと仲よくやっていきたいという要求を満たすために、指導者や少年団仲間の考ええ方、態度を取り入れ、同調行動をとる傾向がある。例えば、指導者に認めてもらいたいために、指導者の価値観、態度、行動を取り入れ、指導者が期待する行動をとるようになる。それだけに指導者は、指導力のあることも大切であるが、それ以上に人間としての魅力があることや、子どもたちの模範となる言動が要求される。どなる、ぶつ、休みがない、ひいきする、説教が多い、しごく、すぐ交代をする、悪口をいう、練習が難しいなどは嫌われる指導者の典型である。

 

 

子ども(4〜6年生)

1

上手に教える

43.2%

熱心に指導

64.0%

2

わかりやすく

42.4%

平等に指導

60.5%

3

差別しない人

33.5%

楽しく行う

49.4%

4

明るい人

31.1%

精神面での向上

41.5%

5

優しく教える

 

技術の向上

28.0%

6

ほめてくれる

 

しつけの重視

14.2%

 

 表は子どもや親の考える「望ましい指導者」像をみたものである。これをみると子どもたちは、指導者自身が必ずしも上手にスポーツができなくても、クラブの仲間と一緒に「楽しく、伸よく、公平に」練習でき、勝敗が最終的な目標でなく、身心の発達や健康が促されるような、そんな指導者を望んでいることがわかる。したがって、指導者の意識のなかで勝つことへの執着が強すぎると、子どもや親のスポーツヘの願いとうまくかみ合わないことになり、指導方針や練習方法についての不満へと発展し 円滑な少年団の運営ができなくなる恐れがある 指導者はスポーツを通じて「育てたい子ども」像を明確にして、子どもたちが参加したミーティング、単なる「応援団」としての親でなく、交流会を活発に開き、子どもや親の悩みや願いを聞くこと。そこで現れる意見の遣いを、つきあわせ、もみほぐし、共同でできる内容と条件を明確にし、解決を図っていくことである。

 魅力ある指導者となるためには、「目指すべき指導者」像を描き、日頃から自分の個人的側面や指導法を振り返り、現在指導者として何が不足しているのかを自問自答することが出発点となる。そして、指導上の疑問や悩みを一人で解決しようとしないで、指導者仲間との交流や研修会にできるだけ参加し、仲間の体験談や成果を聞くことである。参考になることが多いと思う。集団の力、集団の英知が発揮されることで 疑問が解け 悩みが解決され 指導法がいっそう確かなものとなろう。